TBSの2時間スペシャルドラマ「母の贈物」を視た。
向田邦子さんの生誕80年を記念して企画された番組だという。
原作は故向田邦子さん、プロデューサーは石井ふく子さん、演出は鴨下信一さん。
いずれもテレビドラマの世界で大きな金字塔を築き上げた人達だ。
向田邦子さんは独特の人間模様を描き出す脚本家として高い評価を得ている。
しかし、私にとっては、若い頃楽しんでいた「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」の脚本を書いた人。
強い印象があるのは、NHKで「阿修羅のごとく」という作品くらいで、今のような評価を受けるほどの人だとは思わなかった。
鴨下氏は、「岸辺のアルバム」や「ふぞろいの林檎たち」を演出したことで知られるが、いずれもそれ程好きなドラマではなかった。
石井ふく子さんはいわゆるホームドラマというスタイルを作り上げた人。
数々のヒット作を世に出したのと同時に、多くの脚本家を育て上げた。
確かに実績のある先輩達ではあるが、個人的にはさほど影響を受けたというわけではない。
「母の贈物」は「阿修羅…」に近いタイプのドラマで、向田邦子独特の人間模様が繰り広げられていた。
家族とは…、親子とは…と問い直してくるのも末期の向田作品に通じるテーマだ。
スペシャルというには、華のある出演者が出ているわけではない。
それよりも難しい背景を持った人物像を演じきれる人を選んだのはさすが石井プロデュース。
若い2人はともかく、竹下景子さん、石坂浩二さん、萬田久子さんもしっかりした役作りでそれに応えていた。
演出も、いまのドラマの作りとは一線を画すものだった。
たとえば、主な舞台を引越しが終わった娘のアパートと、結婚相手の家にしていた。
多分、番組の70%以上はこの2箇所だったのではないだろうか。
こうした変化のない場面設定でも閉塞感を感じさせないところ。
それに、突拍子もないことが起こったにもかかわらず、淡々と、しかしメリハリの利いたストーリーを展開ていたところに、この作品の質の高さを感じさせた。
これは演出と脚本の綿密に編上げたプランの勝利だといえると思う。
ただ、終盤に入り、母から長い間恋人がいたことを知った息子が絶叫するシーンでそれまでの空気をぶち壊した。
「ワ~ァッ!!!」という絶叫はテレビというメディアに相応しい表現だとは思えない。
それが舞台や、映画と違うメディアとしての特性のひとつだと思っている。
声を張り上げることでしか、演じている人間の感情を表現できない。
大声で自分の感情を訴える術を、絶叫という形でしか表現できない、ある面〈負の演出〉としか感じられない。
それは、テレビ朝日の「だましゑ歌麿」の水谷豊の過剰な熱演にも通じることだ。
演技力がない役者に限って、その複雑な心象描写ができないから、最後の止めとばかりに大声を発する。
ほんの数秒のことだが、この一瞬でこの作品の価値を下げてしまった。
とても残念でならない。
ところで、この作品は舞台化されるそうだ。
池内純子さんと長山藍子さんが二人の母を演じ、石井ふく子さんが演出するという。
この作品、テレビより舞台のほうが良いかもしれないな。
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