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「龍馬伝」がようやく終わった


NHKの大河ドラマ「龍馬伝」が11月28日に終わった。
プログレッシブカメラを使用した斬新な演出を掲げていたが、まったく期待外れの作品だった。
終わって、正直ホッとしている。

歴史ブームの中で最も人気のある坂本龍馬が主人公。
それを演じるのが福山雅治。
事前や放送中のPRもクドイほどやった割に、視聴率は上がらなかった。

その原因はテレビ的でない作品だったからといわざるを得ない。

第一は、チーフ演出の大友啓史お気に入り(?)のプログレッシブカメラの使用がその効果を出しているとは思えない。
例えば、屋外シーンでの埃っぽさが必要以上に際立ってしまっていた。
埃っぽさは、特に第一部の土佐時代に関してはネライだったはずだ。
それがプログレッシブカメラの映像は必要以上に砂埃を際立たせ、視ていて煩わしくなってくる。
それ以外のシーン、カットでもプログレッシブらしい映像の美しさを感じさせるものは皆無だった。

第二は、ハンディーによるクローズアップの多用。
従来のアングルにはない、それこそ斬新なアングルからのアップは緊張感を主張しすぎて押し付けがましい。
時にイマジナリーラインを越えそうにさえなる。
だから二人の空間的、精神的位置関係は見えなくなる。

以前にも指摘したが、最近のドラマではハンディーカメラでのアップが多用される。
微妙に手ブレする画面は配役の気持ちの揺れを表現する場合もあるが、その多くはできの悪い心理描写に陥る。
それを多用すれば、まったく意味も伝わらず、息苦しいだけの映像となる。

今まで私が感動したハンディーのアップは『篤姫』の初夜のシーンのワンカットだ。
そのワンカットを際出させたのは、そこまでのしっかりした絵づくりがあったからというのを忘れてはならない。

第三は、大声で怒鳴るばかりで騒がしい演出。
特に亀山社中結成以後は、番組中ほとんどずっと全員が怒鳴りあっている感じ。
若者たちが新しい時代に漕ぎ出す熱意を表したかったのだろう。
だが、いくらなんでも何かというと大声で怒鳴り続けているというのはどうなのだろう。
演出的にもっと描き方のバリエーションはなかったのだろうか。

放送を重ねるにつれ出演者の演技は過剰になり、逆に緊迫感を失ってしまう。
例えば、後藤象二郎を引き込むシーンや紀州藩に賠償金を請求するシーン。
坂本龍馬を描く上で重要な意味を持つこれらのシーンを台無しにしてしまっていた。

はたして制作陣は、こうした表現が日曜日の夜8時という時間帯に日常空間で視る番組として成立すると考えていたのだろうか。

「龍馬伝」を視て、映画『武士の一分』を思い出した。
映像として比べた時、それは大友啓史と山田洋次の映像表現力の差なのか。
そしてそれが、そのままテレビと映画のそれなのか。

坂本龍馬は土佐弁、西郷隆盛は薩摩弁、勝海舟は江戸弁というのは相変わらず。
熱く燃え滾る情熱の表現も画一的。
「静」による緊迫感を作り出せない。
結局、売り物だった斬新さはカメラの技術面のみで、演出的にはなんら訴えかけるもののない作品。
地デジが事実上本格始動する年。
デジタルハイビジョンの魅力を実感させるべき番組だっただけに残念だ。
このドラマの試みは、エコポイント改定前にテレビを売りつけようとする家電量販店のように感じられた。

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