前職を退職してバンコクに生活の拠点を移した時に、一つの番組を企画した。
それは、東南アジア諸国の由緒あるホテルを詩情豊かに紹介するというもの。
タレントがガヤガヤ押しかけるというのではなく、ロマンチックで優雅な旅へと誘うというのが趣旨だった。
実際、オリエンタルやプラザ・アテネ、レイルロードホテル(ホアヒン)、ヨットクラブ(プーケット)などから取材OKの内諾もとっていた。
しかし、残念ながらこの企画は簡単に却下され、私の記憶のライブラリーに収まった。
最近、それと同じ趣旨の番組があるのを見つけた。
BS日テレが水曜日の夜に放送している「クラシックホテル憧憬」だ。
先週はバンコクのオリエンタルホテル、今週はホアヒンのレイルウェイホテルを紹介していた。
これはけっして著作権云々といったことを主張しようというのではない。
それどころか、私が企画書に盛り込めなかった「時間」という側面を描き出している点に脱帽したのだ。
番組で紹介するのは、現在のホテルのサービスの充実振りや部屋の佇まい、レストランの料理やバーでのナイトライフなど。
そこに、創立以来のホテルの歴史やそれを彩るエピソードが加わる。
長い年月を経て培われたホテルの存在価値が語られるわけだ。
近くの町の様子なども軽く付け加えられる。
レポーターは介在せず、カメラの主観移動で見せてゆく。
映像表現は的確で美しく、ワンカットを長くしっかりと見せてくれるのも好感が持てる。
このように書くと、できの良い観光番組なのだが、そうではない。
この番組の企画者はそこに「貿易商だったおじいちゃんの足跡」という味付けを加えた。
これによってそれぞれのホテルが刻み込んできた歴史の重さやノスタルジーを自然な形で私たちに刷り込んでゆく。
往時のような、ゆったりとした時の流れを体感できる空間としてのホテルを描き出すことに成功している。
同時に、旅という時間の流れを切り取る行動の意味にまでイメージを広げさせてくれる。
私が脱帽したのはこの点だ。
ただ、不満を言うとすればナレーターの渡辺大と杏(放送回により交代)。
番組の企画としては二重丸のキャスティングだが、残念ながらまだ表現力に欠ける。
もう少し声で演技できる人だったら…と思わずにはいられない。
地デジ化の声の高まりと共に、中高年の視聴者にBSの評価が高くなっている。
とはいえ、民放のBSは通販と再放送ばかりなのが現状。
そんな中で、しっかりと予約してでも視たい番組の一つとしてあげておきたい。
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