NHKの「篤姫」で今も印象に残っている映像がある。
家定と篤姫が寝所で心を通じさせ合う時のカットだ。
見つめあう二人の顔のアップがそれぞれハンディーカメラで撮られていた。
それも、遠めからズームしているので、ペデスタルつきのカメラで撮ったようには映像が安定していない。
その微妙に揺れる映像が、高まってゆく二人の気持ちの心理描写として有効で秀逸なカットだった。
このシーンの最初には固定カメラでアップが撮られていたから、意図的にそうした画作りをしたと思われる。
それも二人のそれぞれのアップをハンディーカメラにしたというののだから、ディレクターには大きな冒険だったことだろう。
だから、新鮮な驚きと共に、そうした映像表現を選択した勇気に感服した。
確か岡田ディレクターだったと思う。
それまでスタジオで収録されるドラマでわざわざハンディーでアップを狙うという不安定な映像を意識したことがなかった。
ひょっとしたらこれまでもそうしたカット割をしていたことがあったのかもしれないが、私の記憶には焼き付けられていない。
ということは、さほどインパクトがなかったということだろう。
これに味を占めたのか、その後「篤姫」で何度か同じようなカメラワークで撮っていたが、このシーンほど印象的なものはなかった。
「篤姫」の後、いくつかのドラマを見ていてこれと同じようなカメラワークが目に付くようになった。
ただこれが全く生かされていない。
篤姫のこのシーンを意識したのかどうかは定かではないが、特にその必要がないと思われるシーンで使ったりしている。
だから、一瞬NGカットを使ったような印象を受け、そのシーン全体を台無しにしていることさえあった。
そんな作品を視るというのは、テレビ屋として部外者であっても辛いものだ。
ドラマのディレクターはバラエティーやドキュメンタリーのディレクター以上に絵作りに拘っている筈だ。
そのこだわりこそがドラマディレクターの生命線といってもよいかもしれない。
それだけに、オリジナリティーの感じられる「いい画」を見せて欲しいと思うのは私だけではないだろう。
冒険というのはうまくハマるとインパクトも強いが、往々にして失敗に終わることの方が多い。
それはこれまでの私の経験が証明している。
ただ、ディレクターたるものやっぱりこの点には徹底的に戦いを挑んで欲しいと思う。
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