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「警官の血」に欲求不満


2月7日、8日と二夜にわたってテレビ朝日のスペシャルドラマ「警官の血」を視た。
50時間テレビの一環として制作された、合計5時間にも及ぶスペシャルドラマだ。
脚本・演出は鶴橋康夫さん。
読売テレビの木曜ゴールデンドラマで、大阪に鶴橋ありと謳われた名ディレクターだ。
昨年には同じテレビ朝日で黒澤明監督の「天国と地獄」をリメイクした作品を演出していた。
これは相当できの良い作品で、鶴橋監督の健在ぶりをアピールする作品だった。
それゆえに、今回の「警官の血」も期待してチャンネルを合わせた。

全体の印象を一言でいうと、ちょっと物足りない作品だった。
それは5時間(2時間半×2回)という放送時間によるものだろう。
実質4時間程度で戦後間もない頃から現代まで60年以上を描くのは難しかったのではないか。
シーンごとではしっかりした描き方をしているのに、なぜか駆け足をしているような落ち着きのなさを感じさせられた。

この作品は相当に奥深い人間ドラマである。
そして、その根底に戦争が生み出した悲惨な状況であったり、権力の力であったり、罪とは何かといったことが絡み合ってくる。
だから、全部のシーンがとても意味があり、重要な構成要素だ。
全部が重要なものだから、逆に作品全体に棘がなくなったような感じがしてならない。
1時間の10回放送ならば、もっとしっかりと時代性や心理描写、権力の裏側の力など、鶴橋演出を楽しむことができたように思えてならない。

ただ、鶴橋演出の特徴であるカットバックの手法は随所に生かされていた。
繰り返し使われることで、親・子・孫という三代の警察官の、真に「血」を感じさせられたし、精神的な重圧や葛藤といった心理描写にも意味があった。
最も象徴的なのは日本軍が玉砕したレイテ島での戦いで、精神的に極限に追い込まれた早瀬少尉(椎名桔平)が男色に流されてゆくシーン。
このドラマの最後に語られる部分だ。
それが、この長大なストーリーの底辺に流れる異常性を描き出していた。

番組サイトによると、この作品は150人ものキャストが出演しているそうだ。
普段のドラマならこれほどの役者を起用しただろうかと思えるほど、ビッグネームが顔を揃えていた。
泉谷しげるさん、伊武雅刀さん、奥田英二さん、髙橋克典さん、麻生祐未さん、佐藤浩市さん、寺島しのぶさんなど実力派といわれる演技陣が脇を固めた。
さすが50周年を記念するスペシャルドラマという陣容だ。
普段のドラマならもっとランクの低い人でもよいだろうに…と思うようなところでこうした人たちが演じるのだから、それは深みも重みも出てくる。

例えば、夫に暴力を振るわれる女性を演じた麻生祐未の演技は出色だった。
夫に殴られて吹っ飛ぶ場面は、きっと「カット」の声がかかった瞬間スタッフから大拍手が起こったに違いないと思われるほどの迫力だった。
そしてその暴力に耐えるだけでなく、それでも離れられない女性の運命さえも伝わってきた。
それは同じように主人公(吉岡秀隆)に暴力を振るわれた妻役の貫地谷しほりからは感じられないものだった。
また、麻生祐未の夫を殺すことになる隣人を演じた奥田英二の演技にも、同情以上の感情があることが表現されていた。
きっと、時間にして10分か15分程度にとても凝縮された演技が繰り広げられていた。
それと同様な演技の深みは寺島しのぶさんの演技からも感じられた。

やはり、毎週放送が楽しみになるようなドラマとして、もっとジックリ描いてもらいたかった。
見る側が、さあ今回はどの位重い気持ちにさせてくれるかと覚悟して視たいドラマだと思った。
再構成して、作り直して欲しいと強く望みたい作品だった。

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