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金こそが全てという日本社会の病理


2月9日NHKのドキュメンタリー「職業“詐欺”~増殖する若者犯罪グループ~」を視た。
依然として減少の気配すら見せない『振り込め詐欺』の実態を追った番組だ。

なによりこの制作チームの取材に脱帽した。
多分街に出て地道な聞き込みから、詐欺グループのトップにまで辿り着いた。
警察の捜査陣は何をしているのだろうと思わざるをえない。
番組の中で、一人の詐欺師が「携帯電話に警察から電話が入った」とさえいっていたのだから、ザル捜査といわれても仕方がない。
捜査の方法を根本的に見直したほうがよいとさえ思える。

それはさておき、その内容だ。
番組では振り込め詐欺グループの組織と手口を解明している。
実行犯は20代の若者がほとんどで、有名大学や一流企業の出身者さえいる。
詐欺を「仕事」、実行犯を「従業員」と呼ぶなど組織化している。
決まった時間に出勤し、遅刻には厳しいという。
売上ノルマも設定されていて、その金額は200万円というから、並みの企業より余程厳しい。
彼らの業務は毎日バンバン電話をかけ続けること。
犯行に使われた携帯電話はすぐに捨てるという。
こういった事実を、実際に詐欺を働いている「犯人」たちから聞き出している。
その内容には驚きと同時に、警察への不信感を募らせざるをえない。

番組では、詐欺師たちの生活にも立ち入っている。
彼らは高級マンションに住み、外車を乗り回し、キャバクラで豪遊するという毎日を送っている。
彼らの口からは「金が全て」という言葉が頻繁に吐き出される。
そこに日本の社会の歪みの一側面を見た。
20代の若者たちの快楽を追い求める短絡的な志向に、呆れるより恐怖さえ覚えた。

それにも増してこの犯罪の根の深さを痛感させられたのは、社会とのつながりだ。
逮捕される可能性が高い金の引き出し役(出し子)は街で金に困った若者をスカウトする。
使い捨ててゆく携帯電話の名義人も、同じように職を失って町にあふれている人だ。
この犯罪は今の日本社会が生み出し、増殖させたものということを私たちにつきつけている。
これではこの先減るということは考えられない。
こうして振り込め詐欺が詳らかにした、今の日本社会の歪みこそがこの番組のテーマだ。

番組の終わり近く、金のために切羽詰った彼はまた出し子の道に戻ろうかと口にする。
金がなくなって2日間飲まず喰わずの生活をしていた元出し子だったこの青年の苦悩は見る者を辛くさせるものだった。
雇用環境が悪化する中、明日の生活費のために振り込め詐欺に加担する、これまで犯罪とは無縁だった人々。
逃げ場のない、勝ち組優先の社会が作り出した今を切り取った瞬間だった。
その現代のハムレットは結局出し子に戻ることなく日雇いの仕事に就いたという。
そのナレーションに安堵したのは私だけではないだろう。

番組では振り込め詐欺が現代社会の歪みが生み出したものというところは提示した。
しかし、その病んだ社会についてもう一歩踏み込めていなかったのは残念だった。
まあこれは贅沢な不満というべきかもしれない。
解決の道が見えない重たい内容の番組だっただけに、徹底的にその真相を暴いて見せてくれたらと思ったのだが。
それは続編(あるかどうか分からないが…)に期待することにしよう。

とにかく久々に視る骨太のドキュメンタリーで、十分満足できる番組だった。

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