自分でもCMのディレクションをしているからあまり大きなことは言えないのだが、最近どうなんだろうと考えさせられるCMが目立つ。
最近CM業界では上田義彦さんというカメラマンが引っ張り凧だそうだ。
サントリーの烏龍茶や伊右衛門、資生堂など大企業の中でも、CMの質にこだわる会社のCMやポスターを手がけているという。
その映像の最大の特徴は光の柔らかさにある。
照明であれ、太陽光であれ、直接光を受けて撮影されたものは、発色が綺麗で強い印象を与える。
しかし度が過ぎると、刺々しいイメージになる場合が多い。
上田氏の作品は、たとえ外光を使っている場合も、極力直接光を使っていないように思われる。
それもレフ板などという強い反射光ではなく、壁などに反射した光をうまく捉えている。
だからその映像は柔らかくなる。
また、想定されているキャラクターの設定に、モデルの気持ちがギリギリまで昂まるまでカメラを回さないということも聞いた。
その結果、伊右衛門の本木雅弘と宮沢りえの2ショットに、良いお茶つくりにこだわる夫と、それを見守る妻。
二人の間にある、若い二人の愛とは違う、空気のように当たり前になっている夫婦愛さえも、たった15秒間で描き出している。
こうした徹底したイメージ化が彼のCMの真骨頂だ。
ところが、最近これに似た作品ばかりが目に付くようになった。
AFLACのCMは宮﨑あおいさんの魅力を引き出した上田作品だが、彼女の梅酒や東京メトロのCMでも同じような映像がつくられている。
多分上田氏の手によるものだろう。
宮﨑あおいさんのCMは上田カメラという不文律ができあがっているのではないかとさえ思えてくる。
さもなければ、最近注目のクリエイターがキャラクターは宮﨑、カメラは上田と指名しているのか…。
どれほど上田氏が企業や代理店の信望を得ているかの証左だが、CMの存在価値としては疑問を感じないわけにはいかない。
CMは何より企業や商品のイメージを浸透させる手段だ。
それだけにオリジナリティーが何より要求されるはずで、それによって他社との差別化をはかっているはずだ。
ところがこれほど上田作品が巷にバンバン流れるようになると、それがどれほど高品質のものだとしても、そのオリジナリティーが失われるわけだ。
AFLACのCMなのか、梅酒のCMなのか。
映像の質を見る限りその差は限りなく少ない。
それでCMとしての存在価値があるのだろうか、と疑問を持ってしまったわけだ。
流行に敏感なCM業界のこと、視聴者の反応がよければその傾向に流されるのは理解できる。
だけれど、もう一度CMの原点に戻って見つめなおす必要もあるのではないだろうか。
それができるほどの企業であることは間違いないのだから。
そう、ちょうど上田氏を発掘したようなチャレンジを期待したい。
そんな風に思うのは私だけだろうか。
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