田村正和さん久々の時代劇を視た。
テレビ朝日の「忠臣蔵 音無しの剣」。
10年ぶりの時代劇出演だそうである。
高貴な身分でありながら、わけあって市井に暮らす浪人結城慶之助を演じた。
忠臣蔵、赤穂浪士討ち入りの裏にあった人間ドラマだ。
もちろんフィクションだが、愛する女性のために動いた剣士の物語。
番組のサイトによると、江戸時代の『カサブランカ』、大人のラブストーリーなのだそうだ。
結論からいうと、辛く、寂しさだけが残った。
田村さんに若かりし頃の「眠狂四郎」のあの美学は消え失せていた。
スッとしたあの立ち姿、狂気さえ感じられた殺陣、数少ない台詞の間に見せる孤独感。
真に白磁のような美しさが眠狂四郎にはあった。
それは映画で市川雷蔵が演じた眠狂四郎とは異なる眠狂四郎像を鮮烈に作り出していた。
今回の作品では、その全てが過去の遺骸としてのみ存在していた。
なのに、それを制作サイドもご本人もそれを求めてしまっていたことが、視る者の心を辛くさせるものになっていた。
年齢を隠せないアップ。
形のみトレースしていた立ち姿。
とても剣豪とは思えない殺陣。
そしてそれを補えないカット割。
「眠狂四郎」を念頭においていたがために、より一層厳しく現実を突きつける形になってしまっていた。
ストーリーは、そんなことがあってもおもしろいな思わせるもので、昔の恋人だった和久井映見さんのために尽くす主人公は真にカサブランカのハンフリー・ボガートをイメージさせるものだった。
そんな設定がおもしろかっただけに、もう「眠狂四郎」の遺影である必要はなかったのではないか。
新しい田村正和の時代劇を作り上げて欲しかった。
それはちょうど、古畑任三郎という正反対のキャラクターを演じたように。
やはり過去のイメージが強ければ強いほど、それを払拭するというのは難しいものだということを実感させられてしまった。
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