今、どうしても許せない番組というのがある。
嫌いな番組ならチャンネルを替えるとか、スイッチを切るとかするということは十分理解している。
またどんなにショーモナイ番組でもテレビ局や制作会社のことを考えれば、致し方ないながらも納得する了見もあるつもりだ。
しかし、企画が存在していること自体が許せないという番組というのも、ごくごく稀ではあるがあるものだ。
それはNHKの「世界一周!地球に触れる エコ大紀行」という番組だ。
二人のアナウンサーが北半球と南半球をそれぞれ一周しながら世界各地のエコツアーに参加するというものだ。
企画の上では「大自然の魅力を体感しながら、地球に迫る危機や自然や生き物の保護の重要性をみつめ(番組サイトより)」るということらしい。
私がなぜこの番組を許せないか。
第一に、エコツアーというのは、その志の高さはともかく、レジャーである。
アナウンサーを遊びに行かせるために私はNHKに受信料を払っているわけではない。
加えて、どのツアーに参加しても彼らはまるで観光客、または安っぽいタレント並みのリアクションしかできない。
これも許せないところだ。
第二に、エコツアーを紹介することで、当然のことながら観光客が増えることが予想される。
そのことは、危機に瀕している地球の自然を壊す一因となることにつながる。
その自然を破壊することにつながる番組を作りながら、自然保護の重要性を謳うという矛盾。
そんな欺瞞的な番組を許せるわけがない。
第三に、エコツアーを開催すること自体が、自然はおろか、古来からそこに住んでいた人々の生活や文化を破壊しているということに目を向けていないことだ。
特に深刻なのはこのことだ。
私は5年近くバンコクに住んでいた。
タイでは自然保護と人間の伝統や文化の保護という問題に突き当たっている国の一つだ。
タイ北部チェンライという町から山の中へ入ってゆくとメイホンソン村がある。
カレン族という山岳民族の村で、首長族の村として知られている。
カレン族をはじめ山岳民族たちは古来から移動を繰り返しながら、焼畑農業と山から木材を切り出すことで細々と生活を送ってきた。
彼らの生活はけっして自然を破壊するものではなかった。
ところがタイ政府は自然保護の観点から森林の伐採と焼畑を禁止する法律を定めた。
加えて山岳民族の多くをタイ人として認めたために、彼らは定住を余儀なくされた。
今まで自然と共存していた伝統や生活習慣を放棄させられたのだ。
彼等は以前のように肥沃な土地を求めて自由に移動することができなくなり、かぎられた土地で農耕に従事しなければならなくなった。
土地のやせた山の傾斜地では収穫量が極端に低下し、今では主食の米でさえ自給できなくなっている村も多くなっているという。
長年培ってきた生活の基盤を失った彼等は、今貧困にあえいでいるのだ。
そこにエコツアーが進出してきた。
昔ラオスとミャンマーの国境地帯でゴールデントライアングルと呼ばれたエリアは今エコツアーの観光客が頻繁に訪れている。
メイホンソン村は今や観光地だ。
観光客は首輪をして首が伸びた首長族の女性を探しに躍起となる。
そして彼女たちは、こうしてやってくる観光客相手にお土産を売ったり、一緒に写真に写ったりと客寄せの道具となっている。
またカレン族は象を扱うことに長けている、山岳民族では珍しい部族だ。
男たちは木材の運搬に働いていた象に、エコツアーの参加者を乗せて、ツアー会社からわずかばかりの収入を得ている。
もっと悲惨な場合は、国境を越えミャンマーに行き木材の運搬に従事する。
そしてそこで地雷を踏み、足を吹き飛ばされたりするケースも少なくない。
意図したことかどうかは別としても、エコツアーが伝統を守って静かに暮らしていた人々の生活を壊したのだ。
こうしたエコツアーの弊害は世界中にいくつもある。
この番組はそうした実態に目をつぶって、自然保護の根本にさえも抵触しているのだ。
自然保護を訴えるのなら外部から人間なんて行かない方がよい。
こんな自然破壊の一因になる番組を、私には許せるわけがない。
この番組には演出面、なかでもアナウンサーたちのレポートの仕方にも許せないところは多い。
自然の大切さ、美しさを謳うのであれば、もっといくらでも方法はあるはずだ。
こんな番組はドキュメンタリーとはいえない。
繰り返し言いたい。
NHK様
私たちは御社の社員を遊びに行かせるために受信料を払っているのではありません!
※タイの山岳民族については私のHPのうち「タイ山岳民族に愛の手を差しのべた人たち」などで詳しく記述しています。
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