NHKの大河ドラマ「篤姫」が最終回の放送を終えた。
1時間15分の延長バージョンとしては駆け足で、明治維新の15年間を生きた篤姫の晩年を描いていた。
佐藤峰世演出はそれでも、十分に視聴者に気持ち良く泣くことができるよう計算されたものだった。
本当は、大奥を出てからの天璋院はかつて仕えた女中たちの生活のために骨身を惜しまずに奔走したという。
死を迎えたときには、当時の金で3円程度しか手元に残っていなかったそうだ。
その辺りのところももう少し見たい感じもしたが、それは大河ドラマとしては難しかったのだろうか。
ドラマでは、あくまでやさしく送り出すところが描かれたのみだったのはちょっと残念だった。
「篤姫」はここ数年視聴率的に凋落する大河ドラマで驚異的な数字を記録した。
ついにはNHKが全日視聴率でTopになる原動力ともなった。
幕末を描いた作品は、あの三谷幸喜脚本で香取慎吾を起用した「新選組」でさえ視聴率的には苦戦していたという。
それは、やるせないほど殺伐とした時代が見る人に救いがなかったからに違いない。
ところが今回は女性層の支持を受けて、誰も想像できなかった程の数字を記録してしまったのである。
今回はその成功の源となったところを制作者としての立場から分析してみよう。
まず、第一に「篤姫」成功の根底には、篤姫の人生を分かりやすく線を引いていったところを見流すわけには行かない。
例えば、「篤姫」の1年間は篤姫の成長と共に、笑い、叫び、泣きという言葉で区切ることができる。
島津本家に養女に出るまでの於一時代の笑い期。
養女となってから家定が薨去するまで、篤姫の時代の叫び期。
そして天璋院となってからの泣き期だ。
そして、そのそれぞれの時代に篤姫に強くかかわり、影響を与えた人たちを作った。
それは佐々木すみ江さん演じる菊本であったり、松坂慶子さん演じる幾島であったり、北大路欣也さんの勝海舟であった。
こうした人たちとのかかわりの中で、成長し、変わってゆく篤姫を分かりやすく見せたところは見逃すことができない。
その存在感の大きさは、1年間「篤姫」を支えた瑛太の小松帯刀や西郷吉之助(小澤征悦)、大久保正助(原田泰造)に匹敵するほど大きなものだった。
もう一つ特筆しなければならないのはキャスティングの妙だ。
前作、「風林火山」は山本勘助役の内野聖陽はじめ、武田信玄の市川亀治郎など演劇界・歌舞伎界の人が主人公を演じた。
それ故、全ての出演者の演技が舞台的になってしまっていて、テレビという枠の中からはみ出してしまっていた感は否めなかった。
映像は彼らの演技によって作り上げられたといっても過言ではなかった。
時には映像の枠を超えてしまって、視づらいというレベルまで達していたこともしばしばだった。
多くの共演者が彼らに呼応して舞台的な演技に流れていった中で、千葉真一と池脇千鶴がかろうじてテレビの世界に繋ぎとめていた。
それに対して、「篤姫」で舞台をベースにしているのは島津久光を演じた山口祐一郎と本寿院を演じた高畑淳子くらいだった。
映像をベースとしている人たちの演技はハイビジョンとアナログという枠はともかく、映像という世界の中で生きてくれていた。
それはテレビというメディアを通していえば分かりやすかったということと無縁ではないはずだ。
この、ある意味分かり易い映像が、女性層の支持を得る大きな力になったと思う。
そして、だからこそ、宮﨑あおいと瑛太という若き天才俳優と、樋口可南子や稲森いずみ、中嶋朋子などの演技を強く私たちに印象付けたのだ。
そして何より、幕末という時代と現在の時代的な類似性というところも見逃せない。
金融危機という未曾有の現在は、ある面幕末という時代とシンクロナイズするところが大きいと思う。
幕末ほど命のやり取りのようなことはないものの、殺伐とした時代という様相は相通じるところが大きいのではないか。
その時代を生き、その流れの中で家族を守りぬいた一人の女性に共鳴し、感動を覚えない人がいるわけがない。
朝日新聞に脚本の田淵久美子がコラムを寄せていた。
彼女自身、この仕事に携わってから、その生活に大きなうねりがあったという。
そうしたことが、この作品にどこか反映されているということは容易に想像がつく。
こんなふうに作品の底辺に流れている女性が感じる「今」が生きていたことが、このドラマの成功の大きな要因であったように思えてならない。
細かく指摘すればいくつもの直すべきところはあったのだが、そうした一つひとつのことを披瀝しても何の意味がないほどの力をこの作品は蓄えていったといわざるを得ない。
それにつけても、一般にいわれるとおり、宮﨑あおいと瑛太は若き天才俳優として異論が挟めない程の才能を私たちに見せてくれた。
そして、稲森いずみさんの「義経」のときの常盤とは一線を画す凛とした美しさ。
中嶋朋子さんの、きっと自身の深からでた優しさあるれる演技は生涯記憶に残るものだ。
それと個人的には、今泉島津家の頃からの女中だった「しの」を演じた小林麻子さんは、この先もっといろいろなところにでてよい女優だと思うのだが。
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